スーパーで鶏肉を選んでいると、国産の隣に並ぶ「タイ産」の安さに驚いた経験はありませんか。
「外国から運んでくるのに、なぜこんなに安いのだろう?」「タイ産の鶏肉は安全なの?」といった疑問や、ブラジル産との違い、味や臭みに関する不安を感じる方もいるでしょう。
この記事では、タイ産鶏肉が安い理由から、気になる安全性、国産やブラジル産との特徴の違い、そして美味しく食べるためのレシピのコツまで、網羅的に解説します。
この記事を読めば、タイ産鶏肉に関するあらゆる疑問が解消され、これからは自信を持って賢く食材を選べるようになります。
【結論】タイ産鶏肉が輸送費をかけても安い3つの理由

タイ産の鶏肉が、輸送費がかかるにもかかわらず国産より安価で提供されるのには、生産コストを抑える明確な理由が存在します。
主に「人件費」「大規模な生産体制」「飼料コスト」の3つの要素が、その価格競争力を生み出しています。
理由1:日本と比較して人件費が安い
タイ産鶏肉の安さを支える最も大きな要因は、日本と比較して人件費が大幅に安いことです。
養鶏農家や加工工場で働く人々の賃金コストが低いため、鶏肉の生産にかかる全体の費用を大きく削減できます。
和歌山の養鶏農家である古田雄也氏の分析によると、日本の平均月収が約36.9万円であるのに対し、タイの平均月収は約10.6万円と、3倍以上の差があります。
この人件費の差が、製品価格に直接反映されているのです。
理由2:インテグレーションによる大規模生産と輸送でコストを削減
タイの鶏肉産業では、「インテグレーション」と呼ばれる垂直統合型の生産体制が確立されています。
これは、ひなの生産から飼育、処理、加工、流通に至るまでの全工程を、一つの企業グループが一貫して管理するシステムです。
この体制により、生産効率が最大化され、スケールメリットを活かした大量生産が可能になります。
また、生産された鶏肉は船舶で一度に大量に日本へ輸送されるため、一羽あたりの輸送コストも大幅に抑えることができます。
理由3:飼料コストを抑える工夫
鶏の生産コストの大部分を占めるのが飼料代です。
タイは、鶏の飼料となるトウモロコシや大豆カスなどの穀物生産が盛んな国ではありませんが、近隣諸国から比較的安価に原料を調達できる地理的優位性があります。
ブラジルほど自国で飼料原料を賄えるわけではありませんが、日本が飼料の多くを輸入に頼っている状況と比較すれば、飼料コストをある程度低く抑えることが可能です。
タイ産・ブラジル産・国産鶏肉の違いは?価格・味・安全性を徹底比較

スーパーの鶏肉売り場では、タイ産、ブラジル産、そして国産が並んでいますが、それぞれに明確な違いがあります。
ここでは、価格、味、安全性、そして流通している部位の違いを比較し、それぞれの特徴を分かりやすく解説します。
項目 | タイ産 | ブラジル産 | 国産 |
---|---|---|---|
価格帯 | 安い | 最も安い傾向 | 高い |
主な味・食感 | あっさり、柔らかい | 弾力がありジューシー | 臭みが少なくクリーンな味わい |
主な流通部位 | もも肉(角切りなど加工品多) | もも肉 | もも肉、むね肉、その他内臓など |
安全性の特徴 | EUの厳しい基準をクリア | 鳥インフルエンザの清浄国 | 高い鮮度とトレーサビリティ |
価格の違い:一番安いのはブラジル産?
一般的に、価格は「ブラジル産 < タイ産 < 国産」の順に高くなる傾向があります。
ブラジルは世界有数の穀物生産国であり、広大な土地で大規模生産を行うため、飼料コストと生産コストを極限まで抑えることができます。
タイ産も人件費の安さや大規模生産で価格を抑えていますが、ブラジル産ほどの価格競争力はありません。
国産は、高い人件費や地価、厳格な品質管理コストが価格に反映されるため、最も高価になります。
味・食感・臭みの特徴:タイ産はあっさり、ブラジル産はジューシー
鶏肉の味や食感は、産地によって特徴が異なります。
国産鶏肉は、新鮮な状態で流通するチルド品が多いため、臭みが少なく鶏肉本来の繊細な風味を楽しめるのが魅力です。
タイ産の鶏肉は、比較的あっさりとしていて柔らかい食感が特徴です。
一方で、ブラジル産の鶏肉は、しっかりとした肉質で弾力があり、ジューシーな味わいが楽しめます。
臭みについては、冷凍・解凍の過程で発生するドリップ(肉汁の流出)が影響することが多く、輸入品は国産のチルド品に比べて臭みを感じやすい場合があります。
安全性の違い:鳥インフルエンザや抗生物質の考え方
どの国の鶏肉も、日本の食品衛生法に基づく厳格な輸入基準をクリアしているため、基本的な安全性は確保されています。
その上で、各国には異なる強みがあります。
ブラジルは、渡り鳥のルートから外れているため、これまで一度も高病原性鳥インフルエンザが発生していない世界でも稀な清浄国です。
タイは、食品安全の基準が厳しいことで知られるEUへの輸出が認められており、その品質管理体制は国際的にも評価されています。
国産鶏肉の強みは、生産から販売までの経路が追跡できるトレーサビリティシステムと、冷凍されずに流通する「鮮度」にあります。
流通している部位の違い:もも肉とむね肉、海外での需要差
スーパーで見かける輸入鶏肉が「もも肉」ばかりだと感じたことはありませんか。
これには、世界的な需要の違いが関係しています。
欧米などでは、ヘルシーで高タンパクな「むね肉」の人気が非常に高く、脂身の多い「もも肉」の需要は比較的少ないです。
そのため、ブラジルやタイなどの輸出国は、高値で売れるむね肉を欧米に輸出し、需要が低く価格が安くなるもも肉を日本などの市場に輸出する傾向があります。
この需要の差が、私たちが安く輸入もも肉を購入できる理由の一つになっているのです。
タイ産鶏肉の安全性は?「危険」という噂は本当か

「安い=危険」というイメージから、タイ産鶏肉の安全性を心配する声も聞かれますが、客観的な事実に基づいて判断することが重要です。
結論から言うと、タイ産鶏肉は日本の厳格な基準をクリアしており、安全性は確保されています。
日本の厳格な食品安全基準をクリアしているため基本的に安全
日本に輸入されるすべての食品は、食品衛生法に基づき、港や空港の検疫所で厳しい検査を受けます。
この検査では、残留農薬や抗生物質、添加物などが国の定めた基準値を超えていないかがチェックされます。
基準に適合しない食品は輸入が許可されず、積み戻しや廃棄などの措置が取られます。
つまり、私たちが国内のスーパーで購入できるタイ産鶏肉は、この厳格な審査をパスしたものであるため、基本的な安全性は保証されていると言えます。
EUの厳しい基準もクリアし、国際的に安全性が評価されている
タイ産鶏肉の安全性を裏付けるもう一つの事実は、EU(欧州連合)への輸出が認められている点です。
EUは世界で最も厳しい食品安全基準を設けていることで知られており、EUに輸出できるということは、その生産・加工体制が国際的な水準を満たしている証拠となります。
実際に、タイの大手養鶏業者はEUの基準に対応するため、抗生物質の使用を制限するなど、高いレベルの品質管理を導入しています。
懸念点:抗生物質の使用量は日本より多い?現状を解説
一部で、タイの畜産業における抗生物質の使用量が日本より多いというデータが指摘されています。
実際に、家畜の病気を予防・治療するために抗生物質が使用されること自体は、日本を含め多くの国で行われています。
重要なのは、肉に抗生物質が「残留」していないかという点です。
前述の通り、日本への輸入品は残留基準値の検査をクリアしています。
しかし、抗生物質の多用は薬剤耐性菌を生むリスクも指摘されているため、こうした背景を理解した上で、消費者が自ら判断することが求められます。
ホルモン剤や成長促進剤は使用されていない
「成長を早めるためにホルモン剤が使われているのでは?」という不安の声もありますが、タイの養鶏業ではホルモン剤や成長促進目的の添加物の使用は禁止されています。
これはタイの大手養鶏業者も公式に表明しており、ホルモン剤の使用を厳しく禁じているEUへの輸出が許可されていることからも明らかです。
鶏の成長が早いのは、品種改良や飼育技術の進歩によるものです。
過去の輸入禁止措置の真相は「鳥インフルエンザ」が原因
2004年に日本がタイからの鶏肉輸入を一時的に禁止したことがありますが、これは安全性の問題ではなく、タイ国内で高病原性鳥インフルエンザが発生したことが原因です。
これは特定の病気の発生国からの輸入を停止するという、国際的な防疫措置の一環でした。
その後、タイ国内での防疫体制が強化され、安全性が確認されたことから、輸入は再開されています。
タイ産鶏肉はまずい・臭い?美味しく食べる調理のコツ

タイ産鶏肉の価格は魅力的ですが、「味が淡白」「独特の臭みが気になる」と感じる方もいるかもしれません。
しかし、これは鶏肉の特性を理解し、調理法を少し工夫するだけで解決できる問題です。
タイ産鶏肉の味と品質の特徴とは
タイ産鶏肉は、国産に比べて脂肪が少なく、あっさりとした淡白な味わいが特徴です。
また、多くが冷凍で輸送され、解凍されてから店頭に並びます。
この冷凍・解凍の過程で「ドリップ」と呼ばれる水分と一緒に旨味成分が流れ出てしまうことが、味が薄いと感じたり、臭みの原因になったりする一因と考えられます。
気になる「臭み」の原因と簡単な下処理方法
鶏肉の臭みが気になる場合、調理前に簡単な下処理をすることで、格段に美味しくなります。
最も効果的なのは、キッチンペーパーでドリップをしっかりと拭き取ることです。
さらに、塩や砂糖を揉みこんで少し置いたり、料理酒やハーブ、ヨーグルトなどに漬け込んだりするのもおすすめです。
これらの下処理は、臭みを取り除くだけでなく、肉を柔らかくジューシーにする効果も期待できます。
ソテーや唐揚げなど「焼く・揚げる」調理法がおすすめ
タイ産鶏肉の特性を活かすには、ソテーや唐揚げ、照り焼きなど、香ばしさが加わる「焼く」「揚げる」といった調理法が適しています。
高温で調理することで表面がカリッと仕上がり、肉の旨味を閉じ込めることができます。
また、スパイスやニンニク、ショウガなどの香味野菜を効かせた下味をしっかりつけることで、淡白な味わいを補い、風味豊かに仕上げることが可能です。
煮込み料理に使う場合の注意点
スープや煮込み料理にタイ産鶏肉を使うと、臭みが汁に溶け出してしまうことがあります。
これを防ぐためには、調理前に一度さっと下茹でをして、アクや余分な脂を取り除くのが効果的です。
また、ネギの青い部分や生姜のスライスと一緒に煮込むことで、肉の臭みを和らげ、スープに深みを与えることができます。
ひと手間加えるだけで、煮込み料理も美味しく楽しめます。
安くて美味しい!タイ産鶏肉のおすすめ活用レシピ

タイ産鶏肉は、下処理と調理法のポイントさえ押さえれば、様々な料理で大活躍する経済的な食材です。
ここでは、家庭で簡単に試せるおすすめの活用レシピのコツをご紹介します。
定番の唐揚げ・照り焼きをジューシーに仕上げるコツ
唐揚げや照り焼きは、タイ産鶏肉の定番レシピです。
美味しく仕上げるコツは、下味をしっかりつけること。
醤油、酒、みりん、おろしニンニク、おろしショウガなどに30分以上漬け込むと、味が染み込み、肉も柔らかくなります。
唐揚げの場合は、片栗粉をまぶす前に余分な漬け汁を軽く拭き取ることで、衣がカリッと揚がります。
照り焼きは、焼く前に鶏肉の厚さを均等にすると、火の通りが均一になり、生焼けや焼きすぎを防げます。
本場の味に挑戦!カオマンガイ・ガパオライス
タイ産鶏肉を使えば、本格的なタイ料理にも挑戦できます。
「カオマンガイ(タイ風チキンライス)」は、鶏肉を茹でたスープでご飯を炊く料理で、鶏の旨味がご飯一粒一粒に染み渡ります。
あっさりしたタイ産鶏肉は、この料理にぴったりです。
また、「ガパオライス」は、鶏肉を粗く刻んでホーリーバジルと炒める料理で、ナンプラーやオイスターソースのスパイシーな味付けが、鶏肉の淡白さを引き立ててくれます。
臭みを抑えて旨味を引き出すスープ・煮込み料理
スープやカレーなどの煮込み料理に使う際は、前述の通り「下茹で」がポイントです。
鶏肉を一度熱湯で茹でこぼし、アクや臭みを取り除いてから本調理に入りましょう。
また、レモングラスやコブミカンの葉といったタイのハーブや、セロリ、タマネギなどの香味野菜を一緒に煮込むと、鶏の臭みがマスキングされ、本格的で複雑な味わいのスープに仕上がります。
まとめ:タイ産鶏肉の安さの理由と賢い選び方
タイ産鶏肉がなぜ安いのか、その理由から安全性、国産やブラジル産との違い、そして美味しい食べ方まで解説してきました。
安さの背景には、人件費や生産体制といった明確な経済的理由があり、「安いから危険」と一概に言えるものではありません。
それぞれの産地の特徴を正しく理解し、調理法を工夫することで、食卓のレパートリーはより豊かになります。
この記事で得た知識を活かして、日々の買い物や料理に役立ててみてください。
- タイ産鶏肉が安い主な理由は人件費、大規模生産、飼料コストの抑制である
- タイの人件費は日本と比べて大幅に安く、生産コストに直接反映される
- 生産から流通まで一貫管理する「インテグレーション」で効率化を図っている
- 日本の厳格な輸入基準をクリアしており、基本的な安全性は確保されている
- 食品安全基準が厳しいEUへの輸出が認められている点も安全性の証左となる
- 抗生物質の使用量は日本より多いとの指摘もあるが、残留基準は遵守されている
- 味はあっさりとしており、ブラジル産のジューシーさ、国産の繊細さとは異なる特徴を持つ
- 冷凍輸送によるドリップが、臭みや味が薄いと感じる一因になることがある
- 調理前の下処理や、焼く・揚げるといった調理法の工夫で美味しく食べられる
- 産地ごとの特徴を理解し、料理に合わせて賢く使い分けることが重要である